第8章第2節では、現在の母集団の母分散が分かっている場合に、母平均が変わったかどうかの検定について説明した。しかしながら、母分散が分かっているという場合は、現実にはあまり多くない。この場合、検定に母分散σ2を利用することができないので、その代わりにデータから計算した不偏分散Vを利用することになる。帰無仮説μ=μ0が成立しているもとでは、サンプルの平均を
、不偏分散をVとすると、

は自由度φ=n-1のt分布に従うことが知られている。この性質を利用して、検定を行う。
手順1 仮説の設定
帰無仮説 H0:μ=μ0
対立仮説 H1:μ≠μ0 (両側対立仮説)
調べたいことによって、μ<μ0やμ>μ0のような片側対立仮説を採用しても良い。
手順2 有意水準と棄却域の設定
有意水準αを設定する。
棄却域は以下のとおり。
対立仮説がμ≠μ0なら、|t0|>t(n-1、α)
対立仮説がμ>μ0なら、t0>t(n-1、2α)
対立仮説がμ<μ0なら、t0<−t(n-1、2α)
手順3 検定統計量を求める
サンプルから、平均
、不偏分散Vを計算する。次いで検定統計量、

を求める。
手順4 判定する
検定統計量t0が棄却域に落ちれば「帰無仮説を棄却する」。棄却域に落ちなければ(採択域に落ちれば)「帰無仮説を棄却できない」。
帰無仮説σ2=σ02が成立しているもとでは、サンプルの平方和をSとすると、

は自由度φ=n-1のχ2分布に従うことが知られている。この性質を利用して検定を行う。
手順1 仮説の設定
帰無仮説 H0:σ2=σ02
対立仮説 H1:σ2≠σ02 (両側対立仮説)
調べたいことによって、σ2<σ02やσ2>σ02のような片側対立仮説を採用しても良い。
手順2 有意水準と棄却域の設定
有意水準αを設定する。
棄却域は以下のとおり。
対立仮説がσ2≠σ02なら、χ02>χ2(n-1、α/2)または、χ02<χ2(n-1、1-α/2)
対立仮説がσ2>σ02なら、χ02>χ2(n-1、α)
対立仮説がσ2<σ02なら、χ02<χ2(n-1、1−α)
手順3 検定統計量を求める
サンプルから、平方和Sを計算する。次いで検定統計量、

を求める。
手順4 判定する
検定統計量χ02が棄却域に落ちれば「帰無仮説を棄却する」。棄却域に落ちなければ(採択域に落ちれば)「帰無仮説を棄却できない」。
母平均の検定に関して、分散既知の場合(u検定)と分散未知の場合(t検定)の2種類がある。これらの使い分けに関して、大きく次の2通りの方針がある。
方針1
何らかの技術的な検討などから、分散は変わっていないと想定される場合、まず母分散に関する検定を行う(χ2検定)。ここで有意にならないとき、分散は今までどおりであると想定してu検定を行う。有意であれば、t検定を行う。
方針2
常にt検定を行う。
これらの方針はいずれもそれなりの説得力がある。同じデータを用いて検定する場合、t検定に比べてu検定の検出力が必ず高い。したがって、可能な限りu検定を行おう、というのが方針1の立場である。一方「分散は変化していない」という仮定のもとで、すなわち情報量を増やした状態で検定するのであるから、u検定の検出力が高いのは当たり前である。しかし、それは見かけ上検出力が高くなっているだけで、いわば有意水準を大きくして検定しているようなものだから、t検定のほうが妥当である、というのが方針2の立場である。どちらの方針を採用しても、それなりのリスクを背負うことになる。方針1を採用するなら、「本当は母分散が変わっているのに『変わっていない』という前提で検定を進める」というリスクを背負う。逆に方針2を採用するなら、「本当は母分散が変わっていないのに『分からない』という前提で検定を進める」というリスクを背負う。
実際に検定を行う場面でどちらの方針を採用するかは諸君に任せるが、少なくとも首尾一貫した態度をとることを望む。u検定を行うなら、その前に必ずχ2検定を実施すること。一般論で言えば、計測誤差などは比較的安定しているので、それらが分散を構成する場合にはu検定を行っても問題がない。また、技術的にばらつきを構成する要素が変化していないことがはっきりいえる場合も同様である。一方、製造方法の原理を全く別の方式にしたときなど、母平均だけではなく分散も変わってしまうかもしれない、あるいは分散にどのような影響が出るのか良く分かっていない、というような場合では、t検定を行うことが妥当である。
二つの母集団があり、それらの平均や分散が等しいかどうかの検定を行いたい場合がある。その際には、以下のような検定統計量が存在する。
平均値の差の検定(分散既知の場合)
二つの正規母集団N(μ1、σ12)、N(μ2、σ22)からそれぞれ大きさn1、n2のサンプルをとったとき、サンプルから計算した平均をそれぞれ
、
とすると、帰無仮説μ1=μ2のもとでは、

は標準正規分布に従うことが知られている。したがって、二つの母集団の分散が分かっている場合には、上の量を検定統計量として検定を行うことができる。検定の方法は、通常のu検定と同じである。
平均値の差の検定(分散未知、等分散の場合)
二つの正規母集団N(μ1、σ12)、N(μ2、σ22)からそれぞれ大きさn1、n2のサンプルをとったとき、サンプルから計算した平均をそれぞれ
、
、平方和をS1、S2とすると、σ12=σ22のとき、帰無仮説μ1=μ2のもとでは、

は自由度φ=n1+n2-2のt分布に従うことが知られている。したがって、二つの母集団の分散が等しいことが分かっている場合には、上の量を検定統計量として検定を行うことができる。検定の方法は、通常のt検定と同じである。
平均値の差の検定(分散未知、分散が異なる場合)
基礎統計学の範囲を超えるので省略。なお、n1=n2で、かつ大きな値の場合、分散が等しいとして検定を行っても、危険率がほとんど変わらないことが知られている。したがって、この後に述べる分散の比の検定を行って分散が変わっているとはいえない場合には、等分散であるとして検定を行ってもあまり大きな問題はおきない。
分散の比の検定
二つの正規母集団N(μ1、σ12)、N(μ2、σ22)からそれぞれ大きさn1、n2のサンプルをとったとき、サンプルから計算した不偏分散をそれぞれV1、V2とすると、帰無仮説σ12=σ22のもとでは、

は自由度(n1-1、n2-1)のF分布に従うことが知られている。したがって、二つの母集団の分散が等しいかどうかを知りたい場合には、上の量を検定統計量として検定を行うことができる。なお、F分布には

が常に成立するという特徴があるので、数値表には、上側の確率点しか掲載されていない。
手順1 仮説の設定
帰無仮説 H0:σ12=σ22
対立仮説 H1:σ12≠σ22 (両側対立仮説)
調べたいことによって、σ12<σ22やσ12>σ22のような片側対立仮説を採用しても良い。
手順2 有意水準と棄却域の設定
有意水準αを設定する。
棄却域は以下のとおり。
対立仮説がσ12≠σ22なら、F0>F(n1-1、n2-1;α/2)
または、F0<F(n1-1、n2-1;1-α/2)
対立仮説がσ12>σ22なら、F0>F(n1-1、n2-1;α)
対立仮説がσ12<σ22なら、F0<F(n1-1、n2-1、1−α)
手順3 検定統計量を求める
サンプルから、不偏分散V1、V2を計算する。次いで検定統計量、

を求める。
手順4 判定する
検定統計量F0が棄却域に落ちれば「帰無仮説を棄却する」。棄却域に落ちなければ(採択域に落ちれば)「帰無仮説を棄却できない」。
なお、少し考えれば分かるが、対立仮説がσ12<σ22の場合、検定統計量を
としてやれば、棄却域はF0>F(n2-1、n1-1;α)となる(分子と分母を入れ替えていることに注意)。すなわち、下側検定の場合は、検定統計量の分母・分子を入れ替えて上側検定を行えば良い。また、数値表を眺めてみると気がつくと思うが、任意のn1、n2、及びα(α≦0.5)に関してF(n1-1、n2-1;α)≧1が成立している。したがって、両側検定の棄却域に関して、
F0>F(n1-1、n2-1;α/2)≧1
F0<F(n1-1、n2-1;1-α/2)≦1
が常に成立している(なぜでしょう)。この性質を利用すると、両側検定では、
で良い、ということが分かる(なぜでしょう)。したがって、両側検定を行うときでも、通常はここに書いたように検定統計量を構成して片側だけ調べている。
71、30、60、67、55、45、38、64、36、69 (単位:ppm)
成分Rの含有率の平均は変わったといえるか、検定せよ。
方法A:7.55、7.74、7.69、7.71、7.73、7.81、7.53、7.58、7.94 (単位:%)
方法B:7.92、7.77、7.75、7.78、8.13、7.99、7.75、7.88、8.00 (単位:%)
測定誤差はどちらもσ2=0.202で同じだとする。両方の方法で、計測値に違いがあるかどうか、検定せよ。